相手の気持ちを考えるのが難しいのはなぜ?
私たちは誰かとコミュニケーションを取る時に、相手の気持ちを考えて言葉を選んだりしますよね。
この“相手の気持ちを考える”ということが、自閉スペクトラム症を持つ方には難しく、相手を怒らせてしまったり、嫌な思いをさせてしまう時があります。
それでは、なぜ相手の気持ちを考えることが難しいのでしょう。
原因はいくつかありますが、“心の理論”の発達が未熟であることが原因の一つだと言われています。
心の理論というのは、相手の気持ちや考えを推測する能力です。
私たちには、様々な気持ちや考えがあります。
それは、自分だけでなく他の人にも気持ちや考えがあって、同じ出来事があっても感じ方や考え方は人それぞれです。
心の理論が発達するとそれが理解できますが、まだ発達が未熟な段階だと、
相手にも気持ちがあることに気づけなかったり、自分と違う気持ちを相手が持っていることが分からなかったりします。
例えば、太った体形の人に「太っているね」と言うと、傷つけてしまうかなと予測できますよね。
ですが、心の理論の発達が未熟な状態だと、“この人は太っている”という事実だけしか頭になく、
太っている人に「太っているね」と言ってしまいます。
太っていると言われたらどんな気持ちになるかな?と推測する能力がまだ育っていないのです。
このように、心の理論の発達が未熟であると、相手の気持ちを考えてみるということをしなかったり、
考えてみても予測がつかないので、相手を嫌な気持ちにすることを言ってしまったりします。
自閉症を持つお子さんの心の理論の発達
心の理論の発達をみるために、誤信念課題というものを行うことがあります。誤信念課題の代表的なものにサリーとアン課題があるので内容を紹介します。

まずはこのストーリーを読んでみてください
- 部屋にサリーとアンがいます。サリーはバスケット、アンは箱を持っています。
- サリーはビー玉をバスケットの中に入れて部屋から出ていきました。
- アンはサリーが出ていくと、バスケットからサリーのビー玉を取り出し、自分の箱の中に入れました。
⇑ のストーリーがイラストになったものがあるので、イラストを見せながらストーリーを読み聞かせます。
そして「サリーが部屋に戻ってきて、ビー玉を取り出そうとするとき、バスケットと箱のどちらから取り出そうとするでしょうか?」と尋ねます。
答えはバスケットです。
これは、心の理論が育ってくる4~5歳くらいで正しい答えが分かるようになると言われています。
心の理論が育つことで、“サリーはアンがビー玉を箱に移し替えたことを知らないから、元々宝物を入れていたバスケットを探すだろう”と推測ができるのです。
心の理論がまだ未熟であるとこのような推測ができず、“ビー玉は箱に入っているから”という事実だけを見て、箱を探すと答えてしまいます。
そして、自閉症を持つお子さんは、4~5歳になってもこの課題に正しく答えられないことが多いと言われています。
相手の気持ちを教えるときの3つのポイント
自閉スペクトラム症を持っているからといって、心の理論がずっと育たない訳ではありません。ゆっくりではありますが少しずつ発達していきます。
相手の気持ちを教えることで、心の理論が発達し、相手の気持ちを考えるようになってくるので、教え方のポイントを3つ紹介します。
①怒ったり責めたりせずに、冷静に説明する
②イラストや言葉などを用いて視覚的に伝える
③ポジティブなことも伝える
①怒ったり責めたりせずに、冷静に説明する
相手の気持ちを考えられなくて、嫌なことを言ってしまったり、手が出てしまったりしたからといって、
感情的に怒ってしまうと、怒られたという記憶しか残らずに、どうして怒られたのか本質に気づけなくなってしまいます。
また、わざと意地悪なことをしたわけではなく、あくまで相手の気持ちを考えるという能力がまだ備わっていないだけなので、
お子さんを責めてしまうと自己肯定感が低くなってしまいます。

「△△をしたら〇〇さんは□□と思ったんじゃない?」と冷静に説明し、どうするべきだったのか話し合うようにしましょう。
②イラストや言葉などを用いて視覚的に伝える
自閉症のお子さんは、聞いて理解するよりも目で見て理解する方が得意なことがあります。
例えばお友達に手を出してしまってトラブルになった場合、どういう状況で手を出してしまったのか、なぜ手を出してしまったのか、自分自身はどういう気持ちだったのか、相手はどういう気持ちだったのかなどお子さんから聞いてみることやこちらから伝えることがたくさんあります。
その場合は、状況をイラストにして書いてみたりすることで、状況を踏まえた相手の気持ちが分かりやすくなります。

イラストや文を書いて状況を話し合う時は”コミック会話”を使うといいですよ。
詳しいやり方はこちらをご覧ください。
③ポジティブなことも伝える
相手の気持ちに気づいてほしくて、普段から相手の気持ちを伝えるようにすると、どうしてもやってほしくないことに目が行きがちになり、
「〇〇したら悲しい気持ちになるよ」「〇〇したら嫌な気持ちになるよ」という声掛けが増えてしまいます。
そうすると、相手の気持ちについて言われることに抵抗感が強まってしまいます。
なので、「△△してくれて嬉しかったよ」など、ポジティブなところを伝えるようにするのも大切です。
おわりに
このような関わり方を継続することで、少しずつ相手の気持ちを考えてみることが増えてきます。
相手がどう感じるかは人によって違いますし、それを推測するのは私たちだって難しかったり間違えたりしますよね。
自閉症を持つ大人の方には、「多分、一般的にはこう思うのだろう」というような感じで、
根本からは理解できないけれど今までの経験や知識から相手の気持ちを推測している方もいらっしゃいます。
それだけ、根本的に理解するのは難しいことなのかもしれませんが、「△△したら、〇〇と思う」ということを教えてもらう経験が少なければ、
相手の気持ちを推測することが更に難しくなるので、小さいうちから相手の気持ちを教えるという経験の積み重ねが大切です。
以上の3つのポイントのうち、すべてをしなけらばならないということはありません。
これならできそうかな、やってみようかな、というものから取り入れてみてください。